慶慮義塾大学天野研究室

慶慮義塾大学情報工学科教授、天野英晴先生が率いる天野研究室では2013年よりATEサービス株式会社が開発したデスクトップ型DUT加温冷却システム「CTS-01」 を利用しています。研究室内では「ペルチェ君」の愛称で呼ばれ、日々の研究になくてはならない存在になっていると言います。
今回は本製品を購入された経緯、またどのように活用されているのか、今後への期待を天野先生にお伺いしました。

天野研究室で弊社のデスクトップ型DUT 加温冷却システム「CTS-01」を購入いただい たのは2013年でした。当時購入に至った経緯からお聞かせいただけますでしょうか?

 現在も共同研究を進めておりますが、芝浦工業大学の宇佐美研究室(宇佐美公良教授)と東京農工大学の並木研究室(並木美太郎教授)と天野研究室で当時、ニア・スレッショルドレベル領域での漏れ電流の削減が研究テーマの一つでした。温度が上がった時に漏れ電流が出やすく、そのためチップの温度を上げて計測する必要がありました。
(天野研究室ではなく、)他の研究室には恒温槽がありましたが、ボードが大きくなると恒温槽に入らなくなる。
その研究ではもう一つ、本格的なプロセッサを動作させながら漏れ電流を削減するという研究もしていて、プロセッサ動作のために外からの電源も必要、リセットも必要ですし、観測用のいくつかの端子を出す必要がありまして、かなり大がかりな仕組みなっていました。つまりコード類が多くなっていたんですね。そうすると恒温槽では少し難しくなってしまいまして、何かいい方法はないかとなりました。チップを冷やしたり、温めたりしたいという要求にペルチェ君(CTS-01)を使わせていただきたいとなりました。

その当時の実験としては温度を上げることが多かったのでしょうか?ちなみに何度ぐらいまでの温度環境が必要だったのでしょうか?

そうですね、低温で使うこともありましたが、高温で使うことがやはり多かったんですね。我々が主に使っているSOTBという素子を含め、多くの素子では温度を上げると漏れ電流が起こりやすいんですね。それで、80度ぐらいまで温める場合が多かったです。
ただ、ペルチェ君の仕組みではチップに接触させて温度を出すのが一番想定されている使い方ではありますが、我々の実験で用いる基板にはチップの周りに端子などがありまして、直接熱の伝導部分を当てるのが、難しい構造でした。そのため周囲を断熱性のゴムのようなもので囲って、その中全体を温めるような方法をとっていました。

低温帯域を利用することはありましたか?

それはありますね。ただ、あまりマイナス方向で利用することがない。下の温度では漏れ電流があまり出ないのであまり使いませんでした。
温度環境試験というと、例えば温度変化による動作速度への影響を計測することが考えられるんですが、SOTBの場合は温度を上げても下げてもあまり変わらないんですね。そうしたこともあって、我々の場合は温めて漏れ電流を測るのが一般的な使用目的だったんです。

利用の頻度はどのくらいでしょうか?

 2013年のプロジェクトをやっていたころは、やはり高温領域で漏れ電流を測ることがメインの研究だったので、非常によく利用していました。その研究が2015年ぐらいでいったん落ちつきまして、その後は高温領域がターゲットではなく、一般的な温度でこれぐらいの性能と漏れ電流になる。けれどそれだけではデータが足りなく、研究としては高温の場合も測定が必要になります。そのためにペルチェ君を使用しています。

つまり使い方が購入当時とは変わってきたということでしょうか?

はい。当時、高温領域で漏れ電流を削減するという研究をしていた時はかなりの頻度で使用していました。これはやはり高温領域ではたくさんの問題が起こっていたので、漏れ電流を削減するための研究が必要で、ある意味効果が出る。必要性も高かったのでよく使っていました。
それが終わって一般的な温度で効果を調べ付加的な情報として高温だったらこうなるよ、というデータがとりたいときに、ペルチェ君を使っています。そのため頻度は少なくなっていきましたが、それでも継続的には使っています。その際に手軽にセットアップできて使用できるので非常に便利です。無いと困るんですよね。

研究の内容によって変化はあると思うのですが、一度スイッチを入れるとどのくらいの時間利用するのでしょうか?

はい、大体半日ぐらいですかね。実はペルチェ君は使用する際に電源を入れて、必要な温度に到達するまでがかなり早いんですね。
恒温槽だと必要な温度帯域にするのに時間がかかってしまう。だから一日がかりで温度実験をしなければならなくなることもありました。その点でもペルチェ君は非常に使い勝手が良いと感じています。

なるほど。その必要な温度帯域にセットするための時間の短さという点でも評価いただいたのですね。ありがとうございます。それではこれまで利用されてきて、こんな機能があればいいなどのご要望はございますか?

 先ほども申しましたが、直接チップに当てて熱を伝えることが設計上難しいことが多いです。そのために周りを囲っていますが、この周りを囲うための冶具や部材を合わせて提供いただけるといいと思います。
 部分的に接触させて温度を伝える方法では全体を接触させるのと比較してバラツキが出てしまいます。そのためチップ自体の温度を計測するために熱電対をつけます。熱電対から取得する温度データがより正しい温度がとれると考えています。
 ただこれは接触式に限らず、恒温槽を使う場合でも同じで、やはり恒温槽の機器自体が表示する温度と実際のチップの温度は違ってしまうので、熱電対を用いてチップのデータを取るのは同じ条件になってきます。

つまり接触式でも非接触式で空間を温める方法でも基本的にはチップ自体の温度計測は必要なのですね。天野先生のほかに、他の研究者や学生の方も利用されるのですか?使いやすさについて、ご意見は出ていますか?

 全員が使うわけではないですが、特定の人たちは割と使っています。恒温槽を使ったことがある人間から見ると、使い勝手はずっといいと感じていると思いますよ。ただ、半導体メーカーや研究者によっては、正確なデータが取れるのかどうかはわからない、という指摘をする人もいます。この点も先ほど申しましたが、チップの外側に熱電対をつけていますし、チップ内部でも温度センサーを付けてデータをとるので、温度計測はしっかりできていると思いますよ。正確なデータを取るという意味では機械によって変わるわけではなく、計測の方法によって十分対応できるんです。恒温槽も優れた機械だとは思いますが、ペルチェ君もそれに劣るとは思っていませんね。用途によって使い分ければいいんです。ただ、恒温槽は高価なんですよね(笑)。

弊社の製品は安価であることもご評価いただけるポイントだと思います。

 それから、製品の仕様に合わせた熱電対の計測冶具や温度計なども推奨品として取り扱ってはいかがでしょうか。メーカーからの提供はユーザーも求めていると思いますよ。今後の提案に期待しております。